Monologue of NOBU

おれの生まれ故郷は
来て頂ければ分かります

その時は是非
寺島旅館にご宿泊を

美人の女将が待ってるよ!


Monologue of NOBU

レンの"華麗"としか言い様がないギターソロから始まったそのロックバンドは
レンにだけスポットライトが当たってるように見えた

周りのざわめきも
ボーカルの歌声も
やがて全てがフェイドアウトして聞こえなくなって
レンのギターの音だけがおれのど真ん中に響いた

出会ってしまったんだ
この上なく
とてつもなくときめくものに


REN

おまえ そのギターどーしたの?


NOBU

父ちゃんに買ってもらったんだ


Monologue of NOBU

当時中3だったレンはほとんど幽霊部員だったけど
外では年上の連中とバンドを組んですでにライブハウスに出始めていた
それが「ブルート」だった

ボーカルの「アルト」は歌ってんだか
わめいてんだか分かんねぇようなネジの外れた男で
ベースの「タイガ」は演奏中でも堂々とビールを一気飲みするふてぶてしさだった
学校では硬派で通っているレンは
絡みついて来る客に愛の大安売り

そんな中
黙々と正確なリズムを刻み続けるヤスだけが
唯一まともな人に見えた
あの時はまだ毛もあったし

あの頃のおれにはレンのやる事なす事
全てが眩しかった

人はそれを恋と呼ぶ


Monologue of NOBU

今にして思うと
あんなふざけたバンドのリーダーで
弱冠高校一年生だったヤスが
本当に一人だけまともだったのか大いに疑問だ


REN

何してんだ
おぼっちゃま


NOBU

親父にギター取り上げられたから自分で買う事にしたんだ
それでこそマイギターだしね


NANA

大崎ナナです


Monologue of NOBU

やっぱり音楽は
人の心を動かす不思議なパワーがあるんだと思った

でも それはたぶん
人の心から生まれるものだからだよね


NOBU

見て見て!
紹介します
ニューマイハニー


REN

いい女だな
おれにもヤらせろよ


Monologue of NOBU

ナナは教室では相変わらずだったけど
二人きりなら普通にしゃべったから
おれは煙草を吸うナナに付き合ってよく授業をサボった

もっともナナに言わせると
あれはギターを弾くおれにナナが付き合ってくれていたらしいけど

おかげで1学期の成績は2人して散々で
バカにし合って腹の底から笑った

夏休みに入るとおれは店長にすがられるままシフトを増やし
朝から晩まで汗だくで働いた

ナナとは時々電話で話すだけだったけど
向こうもバイトに励んでるらしく
普通に元気そうだったからそれで満足した

おれはナナにはあんな事やそんな事をしたいとは別に思わなかったし

そうして夏休みが明けると
ナナの援助交際疑惑があっという間に広まった

何故だ


NOBU

なんで否定しねえんだよ!
濡れ衣着せられたまま退学になってもいーの?


NANA

別にいーよ
どーせ辞めるつもりだったし


NOBU

なんか欲しいもんがあるの?


NANA

おぼっちゃまの発想だね


Monologue of NOBU

おれは言われて当然の
ただの道楽息子だったんだけど
一方的に小バカにされて激しくムカついた

でも今思うとあれは
おれとは根本的に分かり合えないと言われた気がして
寂しかったんだよな


NOBU

ナナ!?
よかったーーー
生きてたか!
元気?


NANA

おばあちゃんが死んだ…


Monologue of NOBU

ナナがたった1人の肉親を亡くしたのは1か月も前の事だった
どんなに寂しくて心細かっただろう
ナナに根を張る孤独はおれには計り知れないけど
何かひとつ位してやれる事が
おれにもきっとあったのに


Monologue of NOBU

ナナのおばあちゃん

今日はわざわざ知らせに来てくれてありがとう

おれはこの先
どんなにムカついても
ケンカしても
ナナとはすぐに仲直りするようにがんばるよ

ナナはべっぴんさんだから
その気になれば彼氏の1人や2人
すぐに出来ると思うけど
その気になっても友達は上手に作れないと思うんだ

だからおれが一生 友達でいるよ
どうか安心して天国へ行って下さい

あれから5年
あの時の誓いをおれは今も密かに守り続けている


REN

ノブ…
おまえその調子だとクリスマスもバイト?


NOBU

ううん
彼女の為に空けてあるよ


REN

じゃーこれは
筆下ろし祝いにプレゼントしてやるよ
クリスマスライブのチケット2枚


NOBU

レンの事紹介するよ
ぜってー気が合うと思うんだ
ナナに彼氏が出来ればおれも安心だし


Monologue of NOBU

この幸福で平和な時間がずっと続けばいいのに
それはいつも切実な願い

だけど現実は容赦なくて
おれは頼りなくて
朝海を食わせてやるって言った事も
ナナのおばあちゃんとの約束も
本当に守り通せるかは分からない

だけど希望は捨てないよ

そう言えば
親父に引き離されたおれの最初の恋人が
今おれの部屋でおれの帰りを待ちわびてるらしい

次のオフには親孝行がてら帰って
久しぶりに夜明けまで抱きしめてあげなくちゃ

ちょっと泣ける位
素敵なメロディーが生まれそうな気がするんだ


Tweets

ノブがナナの友達でよかった。
15歳で天涯孤独になったナナにとって、ノブはとても大切な存在だったと思う。
苦労を知らないおぼっちゃまだけど、見た目とかくだらない噂に惑わされることなく、
人の本質を見抜ける優しい人。
レンもきっとそういうノブがかわいかったんだと思う。
ノブは頼りなくみえるけど、それは優しすぎるからであって頼りないわけじゃない。
いつまでも変わらずにいてほしい。