おれの生まれ故郷は
来て頂ければ分かります
その時は是非
寺島旅館にご宿泊を
美人の女将が待ってるよ!
レンの"華麗"としか言い様がないギターソロから始まったそのロックバンドは
レンにだけスポットライトが当たってるように見えた
周りのざわめきも
ボーカルの歌声も
やがて全てがフェイドアウトして聞こえなくなって
レンのギターの音だけがおれのど真ん中に響いた
出会ってしまったんだ
この上なく
とてつもなくときめくものに
おまえ そのギターどーしたの?
父ちゃんに買ってもらったんだ
当時中3だったレンはほとんど幽霊部員だったけど
外では年上の連中とバンドを組んですでにライブハウスに出始めていた
それが「ブルート」だった
ボーカルの「アルト」は歌ってんだか
わめいてんだか分かんねぇようなネジの外れた男で
ベースの「タイガ」は演奏中でも堂々とビールを一気飲みするふてぶてしさだった
学校では硬派で通っているレンは
絡みついて来る客に愛の大安売り
そんな中
黙々と正確なリズムを刻み続けるヤスだけが
唯一まともな人に見えた
あの時はまだ毛もあったし
あの頃のおれにはレンのやる事なす事
全てが眩しかった
人はそれを恋と呼ぶ
今にして思うと
あんなふざけたバンドのリーダーで
弱冠高校一年生だったヤスが
本当に一人だけまともだったのか大いに疑問だ
何してんだ
おぼっちゃま
親父にギター取り上げられたから自分で買う事にしたんだ
それでこそマイギターだしね
大崎ナナです
やっぱり音楽は
人の心を動かす不思議なパワーがあるんだと思った
でも それはたぶん
人の心から生まれるものだからだよね
見て見て!
紹介します
ニューマイハニー
いい女だな
おれにもヤらせろよ
ナナは教室では相変わらずだったけど
二人きりなら普通にしゃべったから
おれは煙草を吸うナナに付き合ってよく授業をサボった
もっともナナに言わせると
あれはギターを弾くおれにナナが付き合ってくれていたらしいけど
おかげで1学期の成績は2人して散々で
バカにし合って腹の底から笑った
夏休みに入るとおれは店長にすがられるままシフトを増やし
朝から晩まで汗だくで働いた
ナナとは時々電話で話すだけだったけど
向こうもバイトに励んでるらしく
普通に元気そうだったからそれで満足した
おれはナナにはあんな事やそんな事をしたいとは別に思わなかったし
そうして夏休みが明けると
ナナの援助交際疑惑があっという間に広まった
何故だ
なんで否定しねえんだよ!
濡れ衣着せられたまま退学になってもいーの?
別にいーよ
どーせ辞めるつもりだったし
なんか欲しいもんがあるの?
おぼっちゃまの発想だね
おれは言われて当然の
ただの道楽息子だったんだけど
一方的に小バカにされて激しくムカついた
でも今思うとあれは
おれとは根本的に分かり合えないと言われた気がして
寂しかったんだよな
ナナ!?
よかったーーー
生きてたか!
元気?
おばあちゃんが死んだ…
ナナがたった1人の肉親を亡くしたのは1か月も前の事だった
どんなに寂しくて心細かっただろう
ナナに根を張る孤独はおれには計り知れないけど
何かひとつ位してやれる事が
おれにもきっとあったのに
ナナのおばあちゃん
今日はわざわざ知らせに来てくれてありがとう
おれはこの先
どんなにムカついても
ケンカしても
ナナとはすぐに仲直りするようにがんばるよ
ナナはべっぴんさんだから
その気になれば彼氏の1人や2人
すぐに出来ると思うけど
その気になっても友達は上手に作れないと思うんだ
だからおれが一生 友達でいるよ
どうか安心して天国へ行って下さい
あれから5年
あの時の誓いをおれは今も密かに守り続けている
ノブ…
おまえその調子だとクリスマスもバイト?
ううん
彼女の為に空けてあるよ
じゃーこれは
筆下ろし祝いにプレゼントしてやるよ
クリスマスライブのチケット2枚
レンの事紹介するよ
ぜってー気が合うと思うんだ
ナナに彼氏が出来ればおれも安心だし
この幸福で平和な時間がずっと続けばいいのに
それはいつも切実な願い
だけど現実は容赦なくて
おれは頼りなくて
朝海を食わせてやるって言った事も
ナナのおばあちゃんとの約束も
本当に守り通せるかは分からない
だけど希望は捨てないよ
そう言えば
親父に引き離されたおれの最初の恋人が
今おれの部屋でおれの帰りを待ちわびてるらしい
次のオフには親孝行がてら帰って
久しぶりに夜明けまで抱きしめてあげなくちゃ
ちょっと泣ける位
素敵なメロディーが生まれそうな気がするんだ
ノブがナナの友達でよかった。
15歳で天涯孤独になったナナにとって、ノブはとても大切な存在だったと思う。
苦労を知らないおぼっちゃまだけど、見た目とかくだらない噂に惑わされることなく、
人の本質を見抜ける優しい人。
レンもきっとそういうノブがかわいかったんだと思う。
ノブは頼りなくみえるけど、それは優しすぎるからであって頼りないわけじゃない。
いつまでも変わらずにいてほしい。