あたしの生まれ故郷は
山に囲まれた
広くも狭くもない町で
ど田舎ではないけど都会でもない
観光に来られてもウリがない
あたしは3人兄弟の真ん中で
金持ちでも貧乏でもない親に
ほったらかされてスクスクと育ち
県内普通レベルの女子校を
もうすぐ卒業する
寂しくなるな
奈々ちゃんに会えなくなるのは
でも仕事だし仕方ないか…
今まで楽しかったよ
ありがとう
だからやめとけって言ったのに
女子高生の分際で不倫の恋なんて…
不倫とか言わないで!!
思い起こせば私の高校生活は
恋に始まり恋に終わった
と言っても過言ではないでしょう
答辞(調)
あれは高1の春
出会いなんか望めないと落胆して入った女子校で
美術の岡本先生(25)に一目惚れしました
べつに美術は得意ではなかったけれど
同じクラスで仲良しになった淳ちゃんと美術部に入る事に決めました
おかげで絵を描くのは大好きになったけど
これといった進展もないまま1年後
彼は別の高校へ去って行きました
次の出会いはすぐにやって来ました
家の近所にオープンしたレンタルビデオ屋の店員
おしゃれな中村さんです(推定23)
私は彼会いたさに毎日ビデオ屋に通いつめ
おかげで映画が大好きになったけど
ある日思いきって話しかけたら冷たくあしらわれてしまいました
それから出会いはあったものの
なぜだかいつも空回りで
確かに私は人より少しばかり面食いかもしれません
でも いくらかっこよくてもハートのない男はやっぱり嫌だし
次はもっと相手とじっくり知り合ってから恋をしようと
反省したのもつかの間でした
それは高3の夏の始まり
とうとう彼に出会ってしまったのです
浅野崇(29)
今思うと偽名かもしれませんが
年もサバよんでるかもしれませんが
一目惚れでした
それから2週間
待てど暮らせど彼は現れなくて
私の想いは募る一方でした
だからあの日
バイトが終わって店を出て
彼が私を待ちぶせしている事に気づいた時には
もう どーにも止まらない位
恋に落ちていたのです
彼の薬指に指輪がある事は
すぐに気づいたけど
気にしない事に決めました
盛りがついていたと言われれば
それまでかもしれませんが
私は彼を本気で愛していたし
愛されていると信じていました
だけど今にして思えば
私は彼の事は携帯の番号くらいしか知らなくて
もちろん どこに住んでるかなんて知らないし
どこの会社に勤めてるのかも知らないし
コンピュータ関係とか言ってたけど
それもデタラメかもしれません
会えるのは月に2・3回程度だし
会えてもドライブ→ラブホテルのひたすら密室コースだし
それでも愛されているなんて
勘違いも はなはだしいってカンジです
もし このまま彼と つき合い続けていたら
私の青春は どんどんうらぶれて行ったに違いないので
別れられて幸いだったと
前向きに開き直ろうと思います
私は この春から親友の淳ちゃんと地元の美術学校へ通い始める予定です
美術学校は共学なので
素敵な出会いを期待しつつ一生懸命がんばります!
卒業生代表 小松奈々
章司はすごくいーやつだから
恋人に対してもきっと誠実な男だと思うんだ
あいつなら奈々の事 大事にしてくれるよ
あたしが保証する
男はべつに恋愛感情なんかなくても
やりたきゃやれるんだよ!
そんなのわかってるもん…
でも章司だけはそんなやつじゃないって信じてたのに…
淳ちゃんも保証してくれたし…
なんか責任感じるなぁ
けしかけたのはおれだしな
やっぱ地元残った方がいいっておまえは
章司はあたしと離れても寂しくないんだ…
寂しかねぇよ 全然!
せーせーすらぁ!
おれは おまえのなんだ?
涙目んなって思わせぶりなセリフ吐いて
人の心かき回して楽しいか
おまえ結局都合よく甘えられる男を
そばに置いときたいだけじゃねえか
何が男女の友情だよ
笑わせんな
奈々ちゃん?
やっぱり…
どうしたんだ
何してるんだ こんな所で
なんか不思議な気分だ
あたし この人の事恨んでたはずなのに
会うとやっぱり全然憎めないや
もうデタラメだったなんて思うのはよそう
あたしは彼を本気で愛してた
彼は それを一時でも受け入れてくれた
それで充分だよ
ありがたいじゃないか
みじめに思う事はない
大丈夫
章司はおまえにホレてるから
章司
今言ってくれたでしょ
心の中で…
愛してるって言ってくれた
聞こえちまったか…
小松奈々
只今 十九歳
彼氏は いれど遠距離恋愛
今に見てろよ 大魔王
どんなにたくさんの恋をしても、どんなに深く誰かを愛していても、満たされない想いがある。
人は自分がしている以上のことを相手に望んでしまう欲深い生き物だから。
求めるばかりじゃなくて、自分が相手の望むことをしてあげたいと思えるようになったら、
きっと相手もその想いに応えてくれる。
独りよがりで自己中なハチ子はいつになったらそのことに気づけるだろう。