Monologue of NANA

あたしは自分の生まれ故郷を知らない

父親の顔は見た事もないし
母親の顔も とうに忘れた

4つの時に この海沿いの町に来て
小料理屋を営む祖母に
さんざん嫌味を言われまくって育ち

今はバイトに明け暮れながら
夢のかけら磨いている


YASU

待てよ レン!

あの事
ノブには おれが話しとくから
ナナにはおまえからちゃんと話せよ


NANA

あたしとレンが初めて会ったのも
こんな吹雪の夜だったんだよ


REN

おまえは あの日赤いワンピース着てた


Monologue of NANA

あの夜生まれた感情を
どんな名前で呼べばいいのか
それは恋だとか
ときめきだとか
甘い響きは似つかわしくない
嫉妬が入り混じった羨望と
焦燥感
そして欲情

今でも時々不安になる

レンと暮らすこの日常が
全て夢の中の出来事に思えたりする
それまで卑屈に生きて来たあたしに
レンは眩し過ぎたから

どんなにあがいても
未だに手が届かない気がするよ


REN

ナナ…
おれ 東京行くから
おまえはおまえの好きに生きりゃいいさ


NOBU

レンは…
ナナを捨ててくつもりか…?


YASU

なんだよそれ… 捨ててくとか
連れてくとか
ナナはレンの飼い猫じゃねぇぞ

立派に自立した一人前の女だろ
一緒に行きたきゃ行くだろうよ

それはナナが決める事だ
レンもきっとそう思ってるよ


Monologue of NANA

レンと二度目に会ったのは
潮風が肌に絡みつく
真夏の午後だった

あの日からあたしは
レンが放つ引力で
高なる潮騒のようだった

胸が波立つ
高く
高く高く
溢れた想いが声になる


REN

ナナ!
おれのバンドで歌って!


Monologue of NANA

だけど あたしはレンの為に
歌う事を決めたわけじゃない
あたしは あたしの為に
今日まで歌って来たんだよ


NOBU

今さら他のボーカルでギター弾く気になれねぇんだよ…


NANA

ありがとう ノブ…
でも あたしは行かない…


Monologue of NANA

レンはあたしに歌う喜びをくれた
ギターを教えてくれた
生きる希望を与えてくれた
だけど あたしはレンの為に何をしてあげられただろう

このままべつに歌なんか歌えなくなっても
レンと一緒に東京へ行って
レンの為に せめて毎日ごはんを作って部屋を磨いて
レンの子供を産んで

そうするべきなのかもしれない
それだって充分すぎる程の幸せじゃないか

家族のいない あたし達にとって
安らげる家を作る事は
夢を叶える事より
必要なはずなんだ


REN

おれにはギターと煙草さえあればいい


NANA

そろそろ時間だね


Monologue of NANA

レンと暮らして一年と三か月
まだ雪が残る春の始まりに
あたし達は終わった

さよならは言わなかった
だけど 離れて暮らす事が
二人にとって致命的なのは分かっていた
電話や手紙なんて価値がない
抱き合えなければ意味がない
レンが言葉に出来ない寂しさを
夜毎 あたしの中で吐き出しているのを
感じていたから

誰よりも深く感じていたのに


Monologue of NANA

今でも時々後悔する
レンのいないこの日常が
全て夢の中の出来事に思えたりする
特に こんな雪の降りしきる夜は

こんな寒い夜は
誰か あのひとを温めてあげてね


Monologue of NANA

レンと別れて一年と九か月
もうすぐ二度目の春が来る

三月の二十歳の誕生日には
がんばった自分にプレゼントを買いに行こう

東京までの片道切符

手荷物は ギターと煙草さえあればいい


Tweets

最後のキスとそれぞれの涙で2人の本当の気持ちがどこにあったのかよく見える。
レンはナナを連れて行きたかったし、ナナもレンとは離れたくなかった。
でも、レンは夢を選んで、ナナはプライドを選んだ。
他のどんなものよりも失ってはいけない存在だとお互いに気づいていたはずなのに。