ねえ ナナ
あたし達の出会いを覚えてる?
あたしは運命とか
かなり信じちゃうタチだから
これはやっぱり運命だと思う
笑ってもいいよ
それは今思えば
ほとんど家出に近い状態でした
だけど うちの親はたいして驚きはしなかったそうです
うちにはあたしより2つ上の姉と2つ下の妹もいて
普段から何かと騒々しいファミリーだったのに加え
その頃のあたしときたら
寝ても覚めても「東京に行きたい」「東京に住みたい」って
そればかりわめき散らしていたので
両親は内心 やっとうるさい娘が1人減って
やれやれといったところでしょうか
そんなファミリーから巣立って行く寂しさも
20年間住み慣れた町をあとにする感傷も
その時のあたしには皆無でした
とにかく東京へ出て行ける事がうれしくて うれしくて
あたしの心は希望と期待で満ちあふれていました
あの…
ところでここ空いてますか?
どうぞ
はいはい
奈々でーす
それともうひとつ
あたしもナナってゆーんだ
ナナちゃん
あたし達の出会いを覚えてる?
外はいつの間にか吹雪で
電車は走ったり止まったり
結局東京まで5時間もかかってしまったけど
あたしは少しも退屈しなかった
だけど あたしは自分の事ばかりしゃべって
ナナの話は少しも聞いてあげられなかったね
もっともナナの事だから
聞いてもはぐらかしていたとは思うけど
おまえ
そんな事しに東京来たんじゃねえだろ
一人立ち出来るような仕事見つけてしっかりやるって約束だろ?
そんな事って何よ!
あたしは章司のためにやってあげたのに!
ダメだな あたし…
こんなんじゃダメだ
章司に嫌われちゃう
どうしよう
どうすればずっとずっと
好きでいて もらえるのかな…
あたしが生まれるよりずっと以前に建てられたそのマンションは
ハイカラとでも申しましょうか
西洋かぶれの洒落た造りで
あたしは一目で気に入りました
難を言えば7階建てなのにエレベーターがない事ぐらいで
田舎育ちのあたしには
川沿いという緑の多い環境にも
やっぱり心魅かれるものがありました
ねえ ナナ
あの川べりで肩を並べて
水面を彩る光を見たよね
あの頃 口ずさんでいたメロディーを
もう一度 聴かせてよ
人との出会いは一期一会。
「出会えてよかった」と思えることもあれば、「出会わなければよかった」と思うこともある。
だけどどんな出会いも最終的には自分にとって意味のあることなんだと思う。
この2人の出会いも確かにすごい偶然の連続だけど、
でもハチ子が言うように本当に運命の出会いだったのだとしたら、偶然ではなく必然だったのかも。
そう考えると、この先の2人の繋がり方も納得できる。