あたしは今もナナの名前を呼び続けている
どんな痛くても
応えてもらえるまで
約束を果たせなくてごめんね
あんたは覚えちゃいないだろうけど
広い庭のある立派な家を
あたしは本気で建てるつもりだったんだ
海の見える高台に
最新のシステムキッチンと地下スタジオ
あんたの部屋のクローゼットには
流行りの服を絶やさず取り揃えて
男に泣かされてばっかのあんたが
何度 出戻ってきても笑えるように
ナナ
行くなよ
寂しいじゃない
ふざけんな!
だったらてめえが来い!
あれは忘れもしない
2001年3月5日
20歳の誕生日
あたしはあんたと出会った
上京途中の列車で出会い
何の因果か一緒に暮らし始めた小松奈々(通称ハチ・ハチ子・ハチ公)は
わがままで泣き虫で甘ったれで
その上 異常なまでの恋愛体質で
しかも移り気で
上京して半年足らずで男はすでに3人目
なのに少しも汚れない不思議な女だった
ハチは うちのバンドにとっちゃペットみたいな存在で
まあ 良く言やマドンナだ
ハチが そこで笑っているだけで
なんとなく場が華やいで
スタジオでもライブでもみんな活気づいた
それは どんな腕の立つ新メンバーが加わるより
意味のある事に思えた
あんたは気づいちゃいないだろうね
自分の一挙一動が
今や台風並みの勢力を持って
あたしの気持ちをかき乱しているなんて
あたしはまるで初めて恋を知った少年のように
高ぶる想いが
決壊ギリギリ
あんたと話してると
マジメに悩んでる自分がアホらしくなるよ
そりゃ良かった
おまえは昔から
物事を何でも暗く重く考えすぎるんだよ
ハチだって おまえに相当なついてるみてえだし
そこまで想われりゃうれしいだろ
思う存分 かわいがってやりゃいーじゃねえか
何の問題もねえよ
誰か あたしを調節して
どうして未だに こんなに
胸が焼け焦げて熱いんだろう
普段は忘れてるのに
うっかり思い出すと無性に恋しくなるのはなんでだ?
なんだかんだ言って好きなんじゃん
その美白美麗な顔立ちはハーフですよね
僕もいかないよ
産まなきゃよかったんだ
あの頃あたしには
譲れない夢があって
おかげで沢山のものを手に入れ
かけがえのないものを失くした
だけどがむしゃらに生きたから
もう何も悔やんでなどいない
ただ心残りはひとつだけ
ねえ ハチ
あんた今
笑ってる?
生まれてこなければよかった命なんて、この世には存在しないと思う。
だけど、ナナもシンちゃんも一番身近にいるはずの家族からの愛情を知らない。
それはなによりも人を孤独にする。
求めても手に入らないことがあるという現実を知っていても、
求めずにはいられない欲求にもがいてる。
どうすればそんな2人を救えるのかな。