ケンカするほど仲がいいなんてよく言うけど
ケンカなんて結局エゴのぶつけ合いだし
本音をさらけ出したところで
人は分かり合えるものでもない
傷つかずに生きて行く事は たぶん不可能だけど
周りを傷つけずに生きて行く努力はしなければと思った
なんだか無性にそう思った
昨日は電話ありがとう
すごくうれしかったのに
突然切ったりして本当にごめんなさい…
あのあと色々考えて
あたしはどうしても
シンちゃんに話しておかなければならない事があると思いました
シンちゃんに聞いてみたい事もあります
今日の午後予定が空いてたら
どこかで会えませんか?
ハチ子
あたしは たぶん
自分が歌で成功しない限り
トラネスのレンに対する複雑な思いを
消す事は出来ないよ
だけど会うと
結局いつも こうして流されてしまうのは
蓮を好きだから
すごく単純な事
つーかグラスは
2つ共 割れてたんだよ
え?
現場見てハチ子がショック受けて泣き出して
タクミは なだめるのが大変だったらしいよ?
その状況じゃおまえがぶちキレて割ったと思うのが普通だし
実際うっかり2つは割れねえだろ
ハチが黙って出て行きたくなるのは当然じゃねえか?
そんな大事にしてたグラスなら なおさらだろ
絶交言い渡されたと思い込むには充分の仕打ちだぞ
どうしよう
べつにそんなつもりじゃ…
じゃー どーゆーつもり?
分からない…
自分がナゾ…
レン!
駅まで乗っけて!
白金台駅?
いや そこの駅
グラス買わなきゃ
何度思い返しても
なんて うかつな事をしたんだろうと思う
だけど強くなる雨脚と
傘を持ち合わせていなかった焦りが
早くハチに会いたいと思うあたしの衝動を高ぶらせた
レンの車はマンションのすぐ脇に止めてあって
走れば一瞬の距離だった
人の運命を狂わす引き金なんて
一瞬で引ける
302号室にトラネスのタクミが女と住んでるだろ!
隠さなくても知ってんだよ!
知り合いなんだから!
有無を言わせぬ一刀両断
いかにもタクミが考えそうな追っ払い方だ
確かに ああ言われたら
自分の勘違いかと思うやつは大勢いるだろう
そして空室と思われている部屋で
フワフワ暮らすハチは
さながら自分が死んでいる事に気付いていない幽霊のようだ
タクミと生まれて来る子供の為だけにしか存在しない女だ
そんな人生が幸せとはあたしは とても思えない
ねえハチ
あんたはほんとにそれでいいの?
それ ほんとにタクミの子供?
たぶん
どうしてシンちゃんが…
自分のお母さんが自分を産まなきゃよかったのにって
思うようになったか聞かせて欲しいの
あたしは自分の子供に…
そんな事 絶対思わせたくないの
僕もハチの子供に生まれたかったな
シンちゃん!
ノブは元気…?
ギターばっかり弾いてるよ
うるさくて僕まで眠れない
何 朝っぱらから自分のビデオ観てんだよ
ううん
僕らがテレビに出てるんだ
ぶ厚い雲が去って
突然スポットライトを浴びた あの日から
あたし達が立っていたのは
ステージじゃなくリングの上だった
歓声と罵声が
今も耳に残って
うるさいよ
レンのバンドとしてのポジションは確かに今はトラネスだけど、
ナナと一緒にいるときはトラネスのレンではなく、本城蓮なはず。
地元で一緒にいたときと、なんら変わりなかったはず。
ナナはどうしてそれをもう少し分かってあげられなかったんだろう。
レンにとってナナはどんなときも大崎ナナだったのに、
ナナだけが本城蓮からトラネスのレンに変わってしまった。
また2人が孤独になる…