あたしの夢は
バンドを成功させて日本中の人に自分の名前を覚えてもらう事だった
たとえ たった一人の人に呼んでもらえなくなっても
レン
おまえまたハマってんのか
ごめん…
もー絶対やんねーから…
レン…
心配しなくても
おれはおまえからナナを奪う気はねぇよ
そーだろうね
ヤスは昔からなんでもおれに譲ってくれるもん
人の事見下してむかつくよ
おまえはナナがいねえと結局こうなるんだ
不安定で見てらんねえ
ナナもおんなじなんだよ!
やっぱりなんかやってんの あいつ
変だよね?
やってねえよ
でも このまま放っといたらどうなるか分かんねぇぞ
奈々ちゃんの一件で気づいたんだ
あいつは たぶん母親に置き去りにされた事が
相当トラウマになってる
おまえには この業界は向いてねえし…
つくづく無理に上京を勧めたりするんじゃなかったよ…
もう無理するなレン
おまえはおれやタクミとは違うんだ
理屈で物を考えずに自分の思う様にやれよ
そんなんじゃ
どの道 長くは続かねえぞ
そんな怒んなって
悪かったよ
一か月も放置して
いや別に怒っちゃいないけど
それはお互い様だし…
けじめ
つけなくちゃ
こんな風に たまに会って
お互いの事話したり 抱き合ったり
そんなクールな恋愛ドラマみたいな付き合い方
あたし達にはやっぱり無理だ
ずっと一緒にいられないなら
終わらせた方が楽になれる
レンだって きっとそう思ってる
ちょっと話があるんだけど
時間ある?
レイラさんのしたい事を
「偽らずに目を見て話」?
してあげるのと
してもらうのは意味が違うよ
ナナ…
なんだよ
さっさと言えよ
息が詰まって死ぬ
結婚して
あたしは子供の頃
自分は誰にも愛されない人間なんだと思っていた
だから16の冬
レンと結ばれた時は
何か とてつもなく幸福な夢を見ているようで現実味がなかった
愛する人に愛されるなんて
あたしには 奇跡だ
運命の相手だと思った
死ぬときゃ
道連れだぞ
じゃー殺して…
いや全っ然ラブラブじゃねぇよ!
あいつが勝手に忍び込んでただけで…
ナナ
レンがイキがっててもガキの頃のまんまなんだから
ちょっとは優しくしてやってよ
頼むからさ
そうか
ヤスが人畜無害なのは
別に悟りを開いてるからでも
あたしを妹扱いしてるからなわけでもない
あたしが他でもない
レンの女だからだ
なんでこんな分かりやすい相関図に気づかなかったんだろう
ヤスが捨て身であたしを守ってくれるのは
身動きの取れないレンのフォローだ
ヤスはあたしより
レンとの絆の方が遥かに強い
レンが生まれた時から一緒だったんだから
同じ施設で
たったひとつの頼みの綱が切れた
どうしようもなくレンに溺れて行くあたしの苦しみなんて
誰も救ってなんかくれないんだ
レンにしか救えない
逃れられねえ運命か
人に作ってあげて喜んでもらうのが好きなのかな
こんなあたしでも少しは役に立ってる気分になれるから
じゃー全ては教祖様のおかげかな
あんたとタクミを出会わせてくれたのもナナちゃんなんでしょ?
なんだかんだ言ってたけど
今までで一番幸せそうだよ? 奈々
前より地に足が付いてる感じがするもん
安心した
ねえ ハチ
あんたとタクミを会わせた事を
あの頃あたしは心底 悔やんでたけど
もし あんたが今もあの男のそばで
幸せに暮らしているのなら
少しは あたしも救われる
たったひとつの頼みの綱だよ
ナナも繊細で弱いけど、レンもかなり繊細。
この2人はお互いの存在が精神安定剤みたいになってる。
だからそれを断たなくてはいけなくなってしまった2年前から
ナナはヤスに依存して、レンはクスリに手を染めた。
ヤスはそんな2人をいつも静かに見守ってきたけど、ずっと後悔してきたのかもな。
レンに上京を勧めたことに責任を感じていたのかも。