タクミは なるべく毎日帰ると言いながら
仕事を理由に帰らない日もよくあった
ほとんどは本当に仕事なんだろうけど
時々なんとなく嘘の匂いがした
100歩譲ってタクミに100人女がいたって構わない
あたしがその中の一番であればいい
一位の座をキープしてみせる
何がなんでも
ごめんねー
どこにも連れてってあげられなくて
この家にいるのが一番落ちつく
そーゆー家にしたいな
11月10日
あたし達の結婚記念日になるはずだった日
仕事を入れようと思えばきっと
いくらでもあったのに
タクミは白金の家にいてくれて
その思いやりがうれしかった
まいどー
芹澤軒でーす
気晴らしにマンションから駅まで歩いてみたんだけどね
騒々しくてよけい気が滅入って
結局タクシー乗っちゃった
あたしも車の免許が欲しいな
ドライブでも行くか
どこ行きたい?
海
行方不明!?
行方はたった今 分かったけどな
四海に何か打つ手はないの?
金さえ用意出来りゃ済む問題じゃねぇだろ
やめたって出回ったビデオは一生残るんだよ
それを嫌がる男と一緒にいても
あの子が追い詰められるだけだ
奈々ちゃんがなんでタクミを選んだかを
もう一度よく考えろ
人生はやり直しがきくって人はよく言うけど
人間は積み上げた過去を土台に生きてるんだから
そう簡単にはいかないわよ
積み木を崩す事がやり直しだとも思えないし
踏ん張って積み上げて行けば
いつか理想の形になるのかしらね
そろそろ初雪が降る頃だと思ってたんだ
おれが死んだら
遺灰はこの海に撒いてね
あ いーねそれ
あたしもそーして!
奥様がいるのに襲う気なのー?
まだ結婚してねえって
してるようなもんじゃなーい
そーなの?
おれは結婚の意味もよく分かんねぇからな
何の為の制度なの?
じゃあなんでプロポーズしたのー?
それしか方法が思いつかなかったからー?
何の方法ー?
ヤブ蚊退治ー?
ハゲ退治
ナナの心の中からヤスを追い出す方法
ガキっぽいよね
紙きれ一枚の契約に何の効力があるんだ
そんなもんで繋ごうとする程よけー虚しくなる
おれ ほんとはきっとナナに歌う事もやめて欲しいんだよ
それでずっとおれの横で
おれの事だけ考えてりゃいーのにとか思ってんだよ
おれ最近
本気でナナの事
殺したくなるんだ
そしたら永遠にナナがおれだけのものになる気がして
真面目にヤバイよ…
誰かおれを殺せよ…
ねえ ナナ
ナナの最後の言葉が
今も希望と絶望の間を行き来する
独り言みたいに 小声でつぶやいたよね
「海が見たい」
苦しくて、寂しくて、どうしようもなくて…
結婚することで解決しようとした。
でもそんなことでは解決しないことは、レンが一番よくわかっていてまた苦しむ。
そんな選択をしてしまった自分もイヤになって絶望する。
明けない夜はないし、出口のない入口もない。
でもレンが入り込んでしまった迷路には出口がないように思える。
どうすれば抜け出せるんだろう…