ホテルの部屋でナナの帰りを待っている間も
ほのかにナナの匂いがして
ナナがそこにいるような錯覚を抱いた
その時初めて気づいた
ナナとレンは同じコロンを付けているんだ
おまえはなんか洞察力があるっつーか
人の内側を見てるとこがいいよ
おれは何考えてるか分かんねえってよく言われるから
そーゆー女じゃねぇと上手くやれねえんだ
ヤスがね
彼女でも作るかって決意して
誰がいいかなって冷静に考えて
こいつがいいなってあたしの事選んでくれたなら
そんな嬉しい事はないよ
あたしはそういう方が信頼出来るの
言ったでしょ?
あたしはヤスのそういう浮わついてない所が好きなの
ナナが部屋に帰って来て
シトラスの香りが2倍になって
はっきりとした佇まいを見せた
ナナとレンはやっぱり2人で1つなんだと思った
あたし達
今はもう会わない方がいいと思う
ありがとう
でもあたしは大丈夫だよ
タクミがついてるし
そっか
そーだな
分かった
もう来ないよ
シンちゃんを好きな気持ちは変わりないんだよ
電話もメールもするよ!
そのうちまた会えるようになるよ!
会わないって決めたなら僕の事なんかもう忘れなよ!
僕の役目はレイラさんの寂しさを埋める事だ
会えなくてよけい寂しい思いをさせるんじゃ意味がないよ
レイラさんはもっと自分にふさわしい恋人を見つけるべきだ
僕もレイラさんとの事はもう忘れる
僕達の事はなかった事にした方がいいんだ
もしナナちゃんとレンが別れたら
あたしはどうなるの?
何も変わんねぇよ
そしたらおれはまた
あの二人が寄り添い合える日が来る事を願うだけだ
何度でもな
帰りのエレベーターで懐かしい人にすれ違った
だけど気のせいだった
今まで沢山恋をして
傷つく度 逃げ出して来たけど
これからは何があっても
タクミの事だけ想い続けて生きて行くんだ
ずっと変わらずに永遠に
ナナとレンみたいに
レイラとは何もねぇよ
オフの日に一緒に里帰りしただけだ
おれがおまえ以外の女とヤルわけねぇだろ
嘘じゃねぇよ
でも抱き合ってた
雪の中で抱き合ってた!
あれは防波堤にレイラを引き上げただけだ
あいつヒール履いてたし
雪で滑りそうだったし
大事な歌姫をケガさせるわけにゃいかねぇだろ!
あたし以外の女に曲なんか書かないで!
おい…
どした
レン
助けて…
ナナが発作起こしたら二酸化炭素を送り込んでやれ
二酸化炭素?
そんな難しい事 出来ねぇよ
簡単だよ
人間の吐く息は二酸化炭素だ
ナナの孤独を救えるのはおまえだけだ
頼むからしっかりしてくれ
ナナ…
ほんとごめん…
死ぬ…
助けて…
死なねぇよ
死なせねぇよ
ねえ ナナ
今でも時々街角で
誰かとすれ違いざまにナナの幻を見るの
ナナはきっと今も あの男物のコロンをつけている
独りでも眠れるように
それぞれが守りたいものと、それぞれが相手に捨ててほしいもの。
今のレンとナナにとって捨ててほしいと思っているものが、相手にとって守りたいもの。
そんな2人が一緒にいてうまくいくわけがない。
でも別れるという選択肢も2人にはない。
一緒にいないことより、一緒にいることの方がつらいなんて地獄のようだ…