その日の夜中
レンは葬儀場に運ばれて
ノブとシンちゃんはすぐにそっちへ向かったけど
あたしはみんなに言われるまま
ミューさんと旅館に残り 朝まで身体を休めた
だけど眠る事など 当然出来なかった
そろそろ ナナ達が来る頃かと思って…
うん
座れよ
気になってどこにいても落ち着かねえよな
でもノブといるとホッとする
そんな図々しい事 言えないけど
今だけはノブの優しさに甘えていたい…
おれ昨日はその場しのぎで あんな風に言ったけど
ナナはおまえが付いてないとダメなんだよ…
ヤッさんだって誰より余裕ねえはずなんだ
レンが赤ん坊の時から一緒で本当の弟みたいなもんだし…
おまえも色々大変だとは思うけど…
おれも出来る限りの事はするから
なるべくナナのそばにいてやって
なるべく…
あたしのなるべくはどれ位だろう
ずっとナナのそばにいてあげたい
その為にはどうすればいいんだろう
今までみたいなその場しのぎじゃ もうダメなんだ
もうレンは永遠に帰って来ないんだから
来たよ
奈々!
おまえは出るな!
話ならあたしがしますから!
ナナには何も聞かないで…
お願いします…
ねえ レン
レンがいないと
必死に守って来たバランスが全部崩れそうだよ
昨日までの設計図はもう使えない
あたし達はこの先何を描けばいいの?
ナナちゃん…
ごめんね…
あたしのせいなの
あたしが…
レイラさん!
ちょっと来て
シンちゃん…
メールありがとう…
ごめんね返信しなくて…
でもなんて書けば…
もうちょっと相手の気持ち考えなよ!
レンがレイラさんを迎えに行こうとして
事故にあったなんてナナさんが知ったら
どう思うか考えてよ
なんでそんな事も分からないんだ…
ナナは何も言わなかった
泣くわけでもなく
触れるわけでもなく
ただぼんやりレンの手を見ていた
ナナはレンとケンカしたままだったのか
会うヒマもなかったし
せめて仲直りさせてやりたかった…
悔やむ事が多い程 辛いものだからな
本城さんが車に積んでたギターケースの中に入ってたんです
確認の為に一度開封してしまいました
すみません
ナナさんへの誕生日プレゼントです
どうか受け取ってあげて下さい…
ごめんねレン
ナナはきっと まだ事実を受け止めきれないだけなんだよ
だからもう少しだけ待ってね
レンの想いはあたしが必ずナナに届けるから
今はどうか安らかに
全ての痛みを忘れて眠って下さい
あいつジャンキーな上に あの外傷じゃ
あんまり骨はきれいに残んねえかもな
全部灰になったって構わねえだろ
ここの海に撒いて欲しいって言ってたそうだから
ねえ レン
レンがいなくなってから
あたし達が目指していた未来は全て白紙になった
あたしは今もそこに何も描けずにいるの
ナナがいないと始まらないの
レンがナナに残した最後の誕生日プレゼント。
たぶんナナのために奏でたメロディーが入っているんじゃないかと思う。
「あたし以外の女に曲なんか書かないで」と言われたあの日から、
レンは自分がしてあげられることはなんなのかと考えていたはず。
でもそれは償いのためじゃない。
ナナにもう一度、笑ってほしかったから。
レンは最期の最期までナナのことだけだったから…