Monologue of TAKUMI

おれの生まれ故郷の話なんて
聞かない方がいいと思うんだけど
出番が来たので語ります

覚悟はいい?


Monologue of TAKUMI

歌うように話す女だと思った


LAYLA

ハジメマシテー
セリザワLAYLAでーす


Monologue of TAKUMI

うちの向かいに並ぶ
似たような外観の建売りの住宅の一棟に
明らかに異質な外観の少女が引っ越して来た事は
近所ではちょっとした事件だった

そんな田舎町に帰国子女の為の学校なんか当然なく
激しく浮きまくりのレイラは
お決まりの差別用語で理不尽な迫害を受けた


LAYLA

ありがとー タクミ
ダイスキ


TAKUMI

つーか おまえさー
いじめられたからって泣くなよ
レイラは何も悪くないのに泣いたら負けだぞ
そんなのくやしいだろ?

言ってる意味 分かる?


LAYLA

チッと分かるー


TAKUMI

「ちょっと分かる」


Monologue of TAKUMI

おれ達はお国の言葉を教え合いながら子供時代を過ごした
何かを習得して行く感覚がおもしろくて
おれはレイラとばかり遊んでいた
他に楽しいと思える事はひとつもなかったし

レイラは子供の頃から歌うのが好きだった
おれは それを聞くのが好きだった

レイラの澄んだ歌声は
おれを取り巻く不穏な空気を一時でも一掃してくれた

病で弱って行く母親への不安とか
酒に溺れて行く親父への不信とか
おかげでグレて行く姉貴への不満とか
おれは今でもカップラーメンが嫌い
あれを食う位なら自分で作る

もしも 天使が本当にいたとしたら
きっとこんな声で歌うんだろうな
きっとこんな顔で笑うんだ


TAKUMI

上手だね
レイラは歌手になれるよ


LAYLA

なりたーい


TAKUMI

なれるよ


LAYLA

TAKUMI
I LOVE YOU


TAKUMI

レイラ
もう おれにキスしたりすんな
もう中学生なんだから


LAYLA

なんで中学生だといけないのー?


TAKUMI

そーゆー事はこれからは彼氏としろ
彼氏とだけ
そーゆーものなの


LAYLA

じゃーレイラ
タクミの彼女になる


TAKUMI

ダーメ
おれ彼女いるし
レイラはかわいいから
中学行きゃ彼氏ぐらい すぐ出来るよ


MEGUMI

ねえ 知ってた?
レイラちゃん 芸能界に入るんだって!


Monologue of TAKUMI

芸能界って…
こんな田舎にそんな世界はねえぞ?
だいたいレイラはまだ子供なのに
一人で勝手にどこ行く気だよ

断固阻止!


Monologue of TAKUMI

おれにしか出来ない事
レイラの歌の良さは誰より おれが一番分かってるんだ


TAKUMI

レイラの歌う曲は全部おれが作る
他のやつになんか任せらんねえ


Monologue of TAKUMI

その時おれの頭の中には
すでに今のレイラの姿があった

ゴージャスな衣装に身を包んで 高らかにロックを歌いあげる
唯一無二の歌姫


Monologue of TAKUMI

その頃すでに
もう先は長くないだろうと言われていたおふくろが
俺が高3の夏まで生き延びれたのは
レイラのおかげだと密かに思っている

レイラの歌声は人の心に希望を与える
そんな力があるから


LAYLA

あたし タクミと同じ高校受ける事にしたー

何よ その顔…


TAKUMI

別に来てもいーけど学校では あんまり話しかけないでねー
彼女がやきもちやくし


LAYLA

タクミ

タクミにとってあたしは何?


Monologue of TAKUMI

誰だ こいつ
いつからこんな大人びた口きくようになったんだ
ついこないだまで あどけない顔してたのに

あれから何年経ったんだっけ
思ってた通り 綺麗な女になったな
きっともっと綺麗になる


Monologue of TAKUMI

気がつくと レイラがすっかり恋する瞳でハゲを見ていた

こんなサラ金まがいの悪党のどこがいーんだよ!
こいつはバンギャルともデキてんだ!

と ぶちまけたかったけどやめた
それより 早くその場を立ち去りたかった
見たくないものを見せつけられた気がして
苛立ちが募った


REN

レイラがハゲとチューしたって
おれの青春は終わったよ


SHION

せつない? タクミ


TAKUMI

いえ せーせーしました


LAYLA

もう鳥かごの中で鳴くのは嫌
タクミの幻想を今すぐぶち壊してよ


YASU

もう あいつの話はするな


Monologue of TAKUMI

あの頃 青春のど真ん中で
意味の分からない苛立ちが沢山あった
今ならちょっと分かるけど

決してけがしてはならない眩い天使
レイラは おれの聖域だった

この薄汚れた浮世の中に ひとつ位そんな場所が欲しかったんだ

あれから何年経っただろう
夢は叶う程に
全てが只の現実と化して煌きを失くして行く
夢を見せる仕事なのに皮肉だよ

だけど今 街に流れるレイラの歌声を耳にして
救われてるやつが きっと何処かにいる
だからどうか歌い続けてくれ

願わくば おれの傍で


Tweets

タクミにとってレイラは空っぽの心を救ってくれた天使。
父親を殺したいと思うほど、すさんでいた日々に光をくれた唯一の存在。
自分の傍でずっと歌っていて欲しいとは思うけど、男と女の関係にはなれない。
汚せない聖域か…
そんな複雑な感情を誰が理解できるだろう。難しすぎる。