ルシたちを乗せてビルジ湖を飛び立った飛空艇は、銃火を浴びてヴァイルピークスに不時着した。
追撃を予期したライトニングは先を急ぎ、ホープも後を追う。
一方サッズは悲観的だ。
軍が追跡をあきらめるとは思えないし、仮に逃げ切れたとしても、使命を果たせなければシ骸になる。
しかも何が使命なのか見当もつかない。
状況は絶望的だったが、ヴァニラを放ってはおけず、サッズは疲れた足をひきずって歩き出す。
夜空を見上げるライトニングは、上官のアモダ曹長を思い出す。
下界の噂を口にした彼女に曹長は告げた--- 下界に関わるな、と。
けれど彼女は忠告に背いた。
セラがルシにされたという事情があったとはいえ、下界のファルシに立ち向かった結果、この有様だ。
彼女の胸中で憤怒がくすぶる。
ルシを追いつめる過酷な運命と、その運命に流されるように逃亡を続けている、自分自身への怒りが。
セラが下界のファルシに捕らわれていることはわかっていた。
聖府の発表では、ファルシはパージ対象者ともども下界へ送られる。
ファルシがコクーンから運び去られる前に追いついてセラを救うには、自分もパージされるしかない---
ライトニングはそう結論し、ためらうことなく行動したのだ。
リスクは承知していたが、やるしかなければ、やるだけだった。
そう聞かされたホープは、自分とライトニングの差を思い知る。
行動するしかない状況でも、眼前の危険に迷わず踏み込める強さはホープにはない。
ついていけなくなったホープは、途方に暮れて座り込む。
その頃、別ルートを進むサッズとヴァニラは難路に悪戦苦闘していた。
ライトニングと同じように、サッズもとある目的のためにパージ対象者の列に並んだのだが、
その時の覚悟を忘れたかのように、ぶつくさぼやいて逃げている。
商業都市パルムポルムに住むホープは、本来パージ対象者ではない。
パージを宣告されたのは、臨海都市ボーダムの住民だけだ。
だが聖府がパージ政策を発表した日、ホープと母は運悪くボーダムに滞在しており、強制的に連行されたのだった。
そしてハングドエッジの戦いで母が命を落とした。
わけもわからず下界のファルシと接触し、いまや自分は呪われたルシだ。
ホープは己を翻弄する運命を呪った。
パージを強行した聖府を、自分をルシにしたファルシを、迫り来る軍を呪い、
そして他の誰よりも、母を戦いに巻き込んで死なせたスノウを憎んでいた。
事情を聞いたサッズは、ホープを父親のもとへ帰してやろうと考える。
ホープは父親に会いたくないようだが、見過ごすことはできなかった。
サッズもひとりの父親なのだ。
黙示戦争--- 下界とコクーンとの争い。
夜空にそびえる巨大な残骸は、数百年前の戦争で撃破された下界の飛空艇だ。
コクーン侵略を試みた下界の軍勢は、聖府のファルシの活躍で撃退されたが、コクーンもまた傷を受けた。
そこで聖府のファルシは下界から廃物を引き上げて、コクーン内に新たな土地を造成したのだ。
コクーン市民が下界を極度に恐れるのは、そんな黙示戦争の苦難が語り継がれているためだ。
しかも下界の脅威は死に絶えていない。
廃物にまぎれていた下界の機械兵士が、さびつく部品を自ら修理してさまよっており、
聖府軍による駆除も追いつかずにいるのだ。
ボーダムに埋もれていた下界のファルシも、廃物とともにコクーンに運び込まれ、数百年間眠っていたのかもしれなかった。
下界の脅威がうごめく闇。
ヴァニラとホープをかばいつつ、サッズはおっかなびっくり進む。
多くを語らないライトニングだったが、サッズは彼女の苛立ちを感じ取っていた。
パージの危険を冒してまで助けようとした妹セラは、彼女の目の前でクリスタルになった。
下界のルシとなってコクーン社会全体を敵に回し、
狩りの獲物のごとく追い立てられて、こんな廃物のはざまを逃げ続けている。
しかもルシには使命があるのだ。
今はまだわからない使命を突き止め、達成しなければシ骸と化す。
もし仮に使命を果たせても、妹のようにクリスタルになるだけ。
けれど迷って立ち止まれば、聖府軍に追いつかれて抹殺される。
どのような道を選んでも絶望ばかり--- それはサッズも同じなのだ。
今後も彼女と力をあわせて、ともに希望を見出せるだろうか?
だがサッズはまだ気づいていない。
ライトニングの胸中に、ある決意が芽生えつつあることを。
ライトニングは決意した。
彼女とセラをルシに変えた、下界のファルシ。執拗にルシを追う軍を操る、聖府のファルシ=エデン。
今の彼女にとっては、下界のファルシも聖府のファルシも同類--- 姉妹の運命を狂わせた敵だ。
敵ならば迷わず戦って倒す。
そんな生き方を最後まで貫くと決めた。
聖府の首都に乗り込んで、ファルシ=エデンを討つのだ。
無謀なのはわかっている。
セラの願いに反して、コクーンを傷つける可能性もあった。
コクーンを守ろうとするスノウと戦うことになるかもしれない。
それでもこの理不尽な宿命に、怒りを叩きつけねば気が済まなかった。
サッズとヴァニラは反対するが、ホープだけは彼女に同調する。
スノウを憎んでいる彼は、戦いを通して強くなりたいと願っていた。
ライトニングの逃亡は終わった。
聖府から逃げるのではなく、聖府を倒すために進むのだ--- その結末は、彼女にも見えていないが。
ライトニングとともに戦う道を選んだホープだったが、早くも疲労の色が濃い。
それがライトニングの焦りを強めた。
敵は強大な聖府軍だ。足手まといなホープという負担を抱えて戦えるほど楽な相手ではない。
余裕を失ったライトニングは、ホープの甘えを罵って、彼を見捨てようとする。
その瞬間、ルシの烙印が灼熱した。
突如として現れた召喚獣オーディンが、邪魔者を消そうとするかのようにホープを襲う。
ライトニングの体は自然に動いた。
彼女はオーディンの刃を受け止め、たった今見捨てようとしたホープを守る。
オーディンに勝利し、召喚獣の力を手に入れて彼女は思う。
召喚獣の出現にはどんな意味があったのか?
その答えは見えないが、確かなことがひとつあった。
ホープを見捨てるという選択肢は、もう心から消えていた。
聖府と戦うライトニングにはついていけない。
けれど他に具体的な策もない。
結局あてどなく逃げ続けているサッズたちは、別れたホープの行く末を案じていた。
ホープは途中で戦いをあきらめ、家に帰ると予想していたが、万が一ということもある。
サッズには別の懸念もあった。
コクーン中が下界の脅威に敏感になっている今、下界のルシが事件を起こせば、どんな混乱が起こるかわからない。
サッズ自身でさえ、いまだに下界を恐れているほどなのだ。
コクーンの平和を望むなら、自分たちルシは死ぬべきなのか---
そんな思いをつい口にして、サッズはすぐに後悔した。
ルシであるヴァニラを傷つける、残酷な一言だったと気づいたのだ。
けれどヴァニラは気丈に微笑み、サッズを励まして駆けていく。
生きのびたければ、逃げるしかない。
ライトニングたちがヴァイルピークスをさまよう頃、
ビルジ湖で軍に拘束されたスノウは、飛空艇リンドブルムに連行されていた。
広域即応旅団--- 通称・騎兵隊。
パージやルシ狩りを遂行するPSICOMとは異なる部隊だが、
指揮官レインズ准将は冷ややかに聖府とPSICOMの思惑を代弁する。
聖府はルシの公開処刑を計画している。
市民が見守る前でルシを殺すことによって、コクーン社会を覆う不安を打ち消す狙いなのだ。
レインズと騎兵隊も聖府の手先なのだろうか?
しかし騎兵隊と行動をともにする謎の女性は、コクーンの敵である下界のルシだ。
レインズの真意をつかめぬまま打ちのめされるスノウ。
無力な自分自身の姿が、あの日の記憶を呼びさます。
残酷な事実を突きつけられ、立つ力さえ失ってしまった情けない自分。
セラがルシだという事実を、初めて知ったあの瞬間。
もしもルシが機械なら、ファルシから与えられた使命がなんであろうと忠実に達成をめざしただろう。
しかし彼らは人間だ。ファルシへの服従を望む者などひとりもいない。
サッズとヴァニラは支えあって逃げる。
自分たちの使命がなんなのか、真の答えを知ることさえ恐ろしい。
一方スノウに迷いはなく、使命を果たすと決めている。
ファルシに従いたいからではなく、セラへの思いを貫くために。
コクーンを守ってほしいという、セラの願いをかなえること---
それが自分の使命なのだと、スノウは固く信じている。
そしてライトニングとホープは闘争を選んだ。
自分たちを翻弄する理不尽な宿命や、敵意に満ちたこの世界に怒りを叩きつけるのだ。
コクーンの中枢である聖府首都エデンをめざす彼女たちは、軍が管理するエリアに踏み込もうとしている---