コクーン社会の平和と安定を守るべく、聖府軍は総力をあげてルシを討たんとしていた。
特務機関のプライドをかなぐり捨てたPSICOMは、
ロッシュ中佐の指揮下に地元の警備軍部隊まで組み込み、商業都市パルムポルム全域で迎撃態勢を固めている。
この街から首都エデンに向かう列車に乗るつもりでいたライトニングだったが、彼女はためらいを自覚していた。
憎悪にかられて闘争に没入するホープの姿に、危うさと痛ましさをおぼえる。
しかもホープをけしかけて戦いへと煽ってしまったのはライトニング自身なのだ。
一方ホープは焦っていた。
母を死なせたスノウと聖府への復讐--- ノラ作戦を、早く達成しなければならない。
使命に縛られたルシはいつシ骸と化すかわからなかった。
軍の警備をかいくぐるために、ホープはライトニングを地下通路へと導く。
ロッシュ中佐が率いるPSICOMと警備軍が、商業都市パルムポルム全域に展開してルシを警戒している。
厳重な警備をかわして街に入るため、ライトニングとホープは地下へと潜った。
このまま市内へたどりつければ、コクーンの中枢である首都エデンに向かう手段が見つかるだろう。
母を死なせたスノウと聖府への復讐--- ノラ作戦にこだわるホープは焦って先を急ぎたがる。
使命を果たせなければルシはシ骸だ。
その時がいつかはわからないが、十分な時間があるとは思えない。
たとえ出口が見えなくても、暗い道を前進するしかなかった。
そんなホープを見つめるライトニングの瞳には悔いの色がある。
生きる気力を与えようとして語りかけた言葉が、ホープの復讐心を煽りたて、彼を危険な死闘へと向かわせたのだ。
その責任を負わねばならない。
今はホープを守らなければ。
コクーンの人間は、聖府のファルシに飼われている---
そう気づいた時、ライトニングは自分の心の奥底を理解した。
自分も生まれてからずっとファルシに守られて暮らしていた。
保護された環境に、自覚がないまま依存していたが、下界のルシになったせいで、そんな環境から切り離された。
だから親に捨てられた子のようにとまどって自分を見失った。
世界を敵に回した不安、セラを奪われた悲しみ、理不尽な運命への怒り。
それらは絡み合って底知れぬ絶望となった。
希望のない未来を考えてしまうのが辛いから、聖府という敵を設定し、
ひたすら闘争に没頭することで目を背けようとした--- 現実逃避だ。
それはホープも同じだった。
無我夢中で復讐をめざしていれば、辛い現実について考えずに済んだのだ。
ライトニングからノラ作戦の中止をすすめられても納得はできない。
復讐をやめたら、何を支えに生きろというのか?
ふたりのルシに、希望は見えない。
ホープがスノウを憎んでいるのは知っている。
だが聖府軍が殺到してくるこの場から、ホープを無事に離脱させるには、スノウに預けるしかなかった。
そう決断したライトニングは、ホープの身柄をスノウに委ね、彼らが逃げる隙を作ろうと敵陣へ斬り込む。
ホープに希望を見せてやれなかった以上、せめて命だけは守らねばならない---
たとえ自分を犠牲にしても。
取り残されたホープはとまどう。
突然に姿を現し、召喚獣シヴァを駆って敵兵を蹴散らしたスノウは、騎兵隊なる部隊を味方につけたという。
騎兵隊も聖府軍の一部だが、ルシに手を貸し、聖府打倒をめざしているらしい。
だがそんなことはどうでもよかった。
母親ノラを戦いに巻き込んで死なせた、憎むべき仇敵が目の前にいる。
復讐を止められてはいたが、言葉だけで思いとどまれるほど浅い憎しみではない。
シヴァの魔力で凍結した街を走るホープは、ライトニングから託されたナイフの重みを確かめている。
パルムポルムにおけるルシ抹殺作戦を指揮するPSICOMのロッシュ中佐は、さらなる戦力の投入を決断した。
住民の避難も終わっていない状況で市街戦を展開すれば、大惨事は避けられないと承知の上だ。
ここでルシを葬らないと、下界を憎む民衆の感情を抑えきれない。
コクーン全土で暴動が発生し、多くの市民が命を落とすことになるのだ。
その頃ふた手に分かれたルシたちは、合流をめざしてホープの家へ向かっている。
ホープの胸には怒りが燃える。
スノウが何も知らずに発した言葉のひとつひとつが、彼の復讐心を加速した。
どうやらスノウは忘れている--- ホープの母親ノラを軍との戦いに巻き込み、死なせたことを。
ホープの目にはそう映った。許すことはできなかった。
無線の向こうのライトニングへ、スノウの復讐--- ノラ作戦の決行を告げるホープ。
それと同時に無線は途切れた。
ライトニングの制止は、ホープに届かないまま消える。
コクーン市民が地獄同然に恐れる下界を、ファングはグラン=パルスと呼んだ。
ホープの家に向かう途上、ライトニングの問いに応じて、ファングは過去を語り始める。
コクーンの外の世界--- グラン=パルスで生まれたルシであること。
グラン=パルスで使命を果たしクリスタルになっていたこと。
クリスタルから復活したら、いつのまにかコクーン内部に運ばれていたこと。
そしてヴァニラも自分と同じく、グラン=パルスから来たルシであること。
その頃スノウたちは、軍の誘導で避難しているパルムポルム市民を目撃する。
聖府は市民をパージする気だ--- そう考えて、
人々を解放しようと飛び出していくスノウの笑顔が、ホープをかえって苛立たせる。
未来に希望のないルシだというのに、どうしてスノウは笑えるのだろう?
ホープは理解できないまま、復讐の時を待つ。
スノウは聖府軍の非情さを見抜いている。
軍の目的は住民保護ではなくルシ抹殺だ。
罪のない市民が何人巻き添えになろうが、ルシを倒せれば構わないのだ。
スノウが市民を脅したのは、人々を自分たちルシから遠ざけて、
軍の攻撃に巻き込まれるのを防ぐため--- 人々を守るためだ。
けれど真意は伝わらない。
スノウとホープは群集に追われ、激しい敵意をぶつけられる。
それは負の感情だけではなかった。
人々が立ち向かってくるのは、自分たちが暮らす社会を--- コクーンを守るためだった。
誰もが下界を、ルシを、自分を憎んでいる。
ホープは過酷な現実に打ちのめされて絶望を深める。
フィリックス街の自宅に帰っても、救われるとは思えなかった。
いつも守ってくれた母ノラはもういない。
スノウのせいで奪われたのだ。
ずっと抱えてきた憎しみを、ホープはついに解き放った。
ほとばしる殺意を魔力に変えて、母を死なせたスノウにぶつける。
しかし仇を討とうとした時、ホープは砲撃に吹き飛ばされる。
その時スノウは迷わなかった。
パージの渦中で死んでいったひとりの母親の、最期の願いを忘れてはいない。
彼女から託された息子--- ホープを必死にかばって、スノウは大地に叩きつけられる。
一方別行動のライトニングは、ファングの告白に耳を傾ける。
クリスタルから目覚めた時に記憶を失っていたファングとヴァニラは、
忘れてしまった使命の手がかりを求めてエウリーデ峡谷に侵入した。
どうしても使命を知りたかったのは、ヴァニラをシ骸にさせないためと、新たなルシの誕生を防ぐためだ。
記憶を失った自分たちの代わりに、セラがルシにされた--- ファングはそう考えている。
ライトニングは複雑だった。ファングはセラの仇に等しい。
だがセラがクリスタルから復活する可能性を教えてくれた存在でもある。
コクーンの人々が下界を恐れるのと同じく、
下界--- ファングの故郷グラン=パルスの民もまた、コクーンを恐れていたという。
ライトニングとファングは互いの共通点に気づく。
それぞれの故郷を敵視しあって生きてきた彼女たちは、同じルシの烙印を背負い、
果たすべき使命もわからないまま、ともに聖府に追われている。
それでもファングには希望があった。
はぐれたヴァニラと再会し、シ骸になる前に使命を果たして故郷に帰る日を夢みている。
それに対してライトニングは、自分には目的も希望もないと思い込んでいた---
が、
ファングの言葉で気づかされる。
クリスタルとなって眠っているセラが目覚める日を夢みればいい。
セラとの再会という希望を胸に生きていけばいい。
ライトニングがそう悟った時、街の彼方で爆炎が弾けた。
スノウとホープへの攻撃だろうか?
状況がつかめないまま、彼女たちは救援に向かう。
ホープが意識を取り戻した場所は、スノウの大きな背中だった。
傷ついた体でホープを背負い、よろめきながらも歩くスノウは、
陽気な笑顔の裏に秘めていた自責と苦悩を語って、ホープの手にナイフを委ねる。
スノウの背中は無防備だった。
ひと突きすれば母を死なせた恨みを晴らせる。
復讐だけを目的に戦ってきたホープが、待ち望んだはずの瞬間--- だが、その時気がついてしまう。
スノウを殺しても母は戻らないと、最初からわかっていた。
それでも復讐をめざしたのは、生きる支えが欲しかったからだ。
復讐のために生きたのではなく、生き抜くための復讐だった。
憎いスノウがいたからこそ、死闘に耐えて生きられたのだ。
自分はある意味でスノウという存在に守られていた--- そう悟ったホープは、
再会したライトニングにナイフを返し、ノラ作戦の終わりを告げる。
聖府軍の追撃をかわし、彼らはホープの家へたどりついた。
妻子を案じてやつれた父へ、ホープは母の死を伝える。
誕生日にセラから贈られたナイフは、ライトニングにとって後悔の象徴だった。
あの日、ルシになったと告白したセラを信じなかった結果、セラは下界のファルシに捕らわれ、
救おうとしたライトニング自身もルシにされた。
彼女が戦いを求めたのは、妹を突き放してしまった後悔から目を背けるためでもあったのだ。
そんな自分の弱さと向き合ったことで、事実を受け入れられるようになっていたライトニングは、
傷だらけの男へ静かに詫びる--- セラを信じて支え続け、そしてホープを守り抜いたスノウへ。
ルシ同士のわだかまりは解けつつあるものの、現実は厳しい。
聖府打倒をめざすスノウへ、ホープの父バルトロメイが指摘する。
ルシが聖府を倒せば、市民の恐怖をかえって煽ってしまう。
敵意にかられた大衆が武器を取れば、制御不能の暴動が起こりかねない。
打開策を練ろうとした時、PSICOMの兵士たちが突入してきた。
傷ついたスノウと父をかばって、ホープは敵に立ち向かう。
PSICOMのロッシュ中佐はルシたちに現実を突きつけた。
パージやルシ狩りが推進されるのは、聖府やファルシの独断ではない。
下界を極度に恐れる大衆がルシの抹殺を求めており、ルシを処刑しなければコクーン全土が混乱に陥るというのだ。
ロッシュの言葉が正しいならば、ライトニングたちの敵は聖府ではなく、数千万の市民の感情ということになる。
それでも生きのびねばならない。
復讐を乗り越えたホープは、新たな目的を求めて旅立つことを決意する。
コクーンに渦巻く数千万の憎悪に抗い、ファルシの思惑すら超えて、進むべき未来を見出すのだ。
ホープは父に別れを告げ、救援に駆けつけた騎兵隊の飛空艇に乗って、生まれ育った家を後にする。
その一方、なおも逃亡を続けているルシたちもいる。
さまようサッズとヴァニラは、運命に流されるように歓楽の都へたどりつく---