ホープは動揺していた。
無我夢中でスノウを追って、ファルシが眠る異跡へ跳び込んだものの、
いまさらになってファルシの恐怖を思い出したのだ。
自分たちはファルシの魔力によって、呪われた者--- ルシにされてしまうかもしれない。
ルシはファルシの手先であり、コクーンの人々すべてに忌み嫌われ、憎まれる存在だ。
ところがホープを導く少女ヴァニラは、ファルシを恐れるそぶりすら見せなかった。
彼女の場違いな明るさに、かえってとまどうホープだったが、おびえながらもスノウを捜し始める。
彼の母はスノウの呼びかけで戦い、スノウを救おうとして、命を落とした。
スノウに責任を取らせなければならなかった。
コクーンの人々にとって、下界とは地獄も同然の恐ろしい世界だ。
下界のファルシは、いわば地獄からの侵略者だった。
ゆえにファルシが発見された時、コクーンを治める聖府はすみやかにパージ政策を決断した。
ファルシをコクーンから排除するだけでなく、
ファルシの近くで生活していただけの市民までもが追放を命じられたのは、
彼らがファルシの魔力に汚染されて、コクーンに敵対する存在に変わった可能性があるからだった。
母の死の責任を問うため、怒りに任せてスノウを追ってきたホープだったが、
この場にとどまっていては、ファルシもろとも下界へ運ばれてしまうと気づく。
けれどもヴァニラは平然と事態を受け入れ、おびえるホープを励ますのだった。
一方スノウは奇怪な神殿のような異跡の奥へ踏み込もうとしていた。
ファルシに捕らわれた婚約者セラが、彼の助けを待っている。
コクーン社会に害をなす存在--- ファルシが、スノウの婚約者セラを捕らえている。
救出をめざすスノウが奮闘している頃、
ライトニングとサッズも聖府軍の攻撃をかいくぐって、ファルシに近づいていた。
固く閉ざされた扉に阻まれ、彼らは内部へ侵入できない。
しかしライトニングが謎めいた謝罪の言葉をつぶやくと、扉は詫びを受け入れるかのように開く。
ライトニングの言葉がファルシに通じたのだろうか?
あるいはファルシとは異なる者の意思だろうか?
語らぬまま歩み始めるライトニングを追って、サッズも異跡へ踏み込む。
彼にもまた、語ることのできない理由があった。
聖府軍の兵器が異跡を徘徊していた。
一昨日この異跡でファルシを発見したPSICOMの調査隊が、そのまま閉じ込められたのだ。
だが真に恐るるべき敵は兵器ではないと、ライトニングもサッズも悟っている。
もっとも警戒すべきは、異跡の奥にひそむファルシ。
そしてファルシの手先となった人間--- 下界のルシだ。
下界のルシ、それは平和を破壊する憎むべき敵だ。
ファルシの近くで暮らしていた市民が、コクーンから強制的に排除されるのも、
彼らがファルシの魔力に毒され、呪われたルシとなった疑いがあるためだった。
ルシの影におびえつつ異跡をさまようホープのもとに、スノウの声が響いてくる。
スノウと対峙し、母を死なせた責任を追及しようと思っていたホープだったが、
いざその時が迫ってくると、現実に向き合うのが怖くなってきた。
恐るべき魔力を操り、破滅を招く呪われた存在--- 下界のルシ。
ルシに変えられた婚約者セラを救い出すというスノウの目的を聞かされ、ホープは怒りを爆発させた。
いくら婚約者であろうと、人類の敵であるルシを助けていいはずがない。
もとよりホープは、母を戦いに巻き込んで死なせた男として、スノウを憎んでいる。
けれどホープはその思いを口に出せなかった。
スノウは憎しみに気づかないまま、ホープとヴァニラを守ろうとする。
その頃サッズは、ルシにされた人間の末路を語っていた。
ルシは永久にファルシの奴隷であり、ファルシの役に立たなかったルシは、シ骸と呼ばれる怪物と化すのだ。
ルシとなった者を救済する方法はない--- そう告げたサッズに、ライトニングは憤りを叩きつける。
彼女もルシの宿命は理解していた。
それでもなお救わねばならないルシがいる。
それは彼女の妹だった。
ファルシに選ばれたルシは、与えられた使命を果たせば、クリスタルと化して永遠を手に入れる---
コクーンに流布する伝説だ。
ライトニングの妹であり、スノウと結婚を誓っていたセラ。
彼女は伝説を裏づけるかのようにクリスタルと化した。
けれど「永遠」とは何を意味するのか?
セラはどんな使命を果たしたというのか?
真実は誰にもわからない。
物言わぬクリスタルへの変化など、永遠の眠り---
死も同然だと受け止めたライトニングは、妹を失った悲しみと怒りをスノウにぶつける。
一方スノウは、セラと生きる未来への希望を捨てようとしなかった。
やがて聖府軍の総攻撃が始まる。
ファルシもろとも殲滅される危機が迫る中、彼らは異跡の深奥をめざした。
スノウは、セラを助けてくれるようにファルシを説得するため。
そしてライトニングとサッズの目的は---?
スノウは必死でファルシに語りかけた。
目の前でクリスタルになったセラを助けられるなら、自分はどうなってもよかった。
しかしファルシは何も答えない。
スノウの悲痛な訴えを無視するファルシに、ライトニングとサッズは武器を向ける。
もうすぐファルシは聖府軍の攻撃で破壊されるとわかっていても、ふたりとも自分自身の手で決着をつけたい理由があった。
彼らの力でファルシは倒され、異跡ごと湖に落ちていく。
滅びゆくファルシの断末魔が、逆巻く荒波を凍りつかせて結晶と化したが、ライトニングたちには見えていない。
彼らはファルシを討つと同時に時空の狭間に引きずり込まれ、異形の存在に接触していたのだ。
「それ」は焼きつけた--- 彼らの体に、呪いの烙印を。
彼らの瞳に、コクーンを攻撃する魔獣の姿を。
人智を超えた魔力に押し流されて、光なき虚空に飲み込まれるライトニングたち。
闇を漂うスノウの脳裏によみがえった記憶は---
ライトニングはファルシを憎んだ。
妹セラをルシに変えて奪った、呪うべき存在。
パージという惨劇の元凶。
クリスタルと化したセラが言い残した「コクーンを守って」という願いをかなえるためにも、撃滅すべき敵だった。
荒れ狂うファルシの猛威が襲いかかる。
覚悟を決めたサッズは銃を取り、スノウも皆を守るために、戦いを決意する。
彼らがファルシを倒した瞬間、閃光が空を裂いた。
混沌の時空に落ち込んだライトニングたちを呪縛する、禍々しい影。
奇怪な烙印を刻まれた彼らは、おぞましい魔獣がコクーンを引き裂く光景を幻視する。
聖府軍の総攻撃で、すべてが崩壊していく。
スノウの遠のく意識の底から、よみがえってくる記憶があった。
たった2日前、夜空を染める花火のもとで誓いあった、セラとの結婚---
それはもう手の届かない未来、かなわぬ夢なのか。